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大阪高等裁判所 平成7年(行コ)6号 判決 1997年10月07日

控訴人(太子町長)

大村一郎(Y)

右訴訟代理人弁護士

小西隆

被控訴人

八木保一(X1)

奥松和英(X2)

右両名訴訟代理人弁護士

水田博敏

岩崎豊慶

赤松範夫

沼田悦治

理由

二 本件土地取得の必要性について

1  前記争いのない事実及び〔証拠略〕によれば、次の事実が認められ、この認定を動かすに足りる証拠はない。

(一)  町内竜田地区の総代会(以下「総代会」という。)は、町事業として推進中の総合公園(柳池総合公園、後に、太子町総合公園と改称される。以下単に「公園」ともいう。)の隣接地が一部不動産業者に買収されるという事態が生じたことから、公園計画の推進に支障が生ずるとの危惧を抱き、控訴人に対し、平成二年二月一三日、本件土地を公共用地として町が買取するよう書面で陳情した(それ以前の平成元年一二月及び同二年一月にも口頭で同旨の陳情をしていた。)ので、控訴人は、本件土地を現地視察するとともに、町役場内で検討をすることにした。

(二)  当時、町においては、町の委託により株式会社DACレクリエーション計画研究所が作成した公園基本計画報告書(〔証拠略〕)等に基づいて、本件土地の北側沿いを東西に走っている県道から約五〇メートル南側を公園の北端とし、西方の南北に走っている県道の東沿いを公園の西端とする基本計画が立てられていた。

そして、公園完成後の公園に至る出入口通道及び公園完成までのすなわち公園整備事業施工中の造園工事用車両の公園用地への出入口通路として、北側県道南沿いの本件土地の西側に隣接する幅員一・八メートルの南北に走る農道と本件土地の西端部分を合わせた幅員七メートルの南北に走る出入口通道(以下「本件出入口(通道)」という。)を設けることが計画されていた(ちなみに、その後の平成三年八月九日付都市計画変更後は、本件土地の東端に公園出入口が位置するように計画が変更されているが、右は、県の意向を踏まえた都市計画の変更により、本件土地以東においては、公園の北端を北側県道南沿いとする等して公園区域が拡張変更されたことに伴うものであり、本件土地が公園出入口用地として必要不可欠な土地であることには変わりはない。)。

(三)  公園完成後の公園に至る出入口(通道)として本件出入口(通道)が計画された理由は、次のとおりである。

すなわち、前記報告書(〔証拠略〕)には公園西側県道からの出入口をメインエントランスとする考え方が示されているものの、その他のエントランスとして北側県道から進入するものも考えられており、うち、北側県道から公園計画地のほぼ中央部に向かうものの位置については、〔証拠略〕を総合すると、本件土地の西端部分に特定されているということができる。そして、公園北側の県道に接した一帯は、かつて、町に合併前は竜田村役場があり、現在も小学校、幼稚園、公民館等の文教施設や郵便局、農協等の公益施設が集中している竜田地区の中心的地域である状況等(なお、後記(四)参照)が重視されたものである。

(四)  また、公園完成までの工事用車両の出入口通路として本件出入口(通道)が計画された理由は、次のとおりである。すなわち、

(1)  公園整備事業の施行については、平成三年から同一七年までの一五年間にわたって用地取得及び造園工事施工を行うことになっており、このため、実施計画・予算計画・事業施工計画等が決定されており、これらによると、平成八年から向こう約一〇年間にわたって右公園用地内において造園等の土木工事が施工されることになっている。その際、多数の大型ダンプカー、ショベルカー等の工事用車両が公園用地内を工事現場として常時活動することになる。

(2)  ところで、公園用地の北側県道については、県によって、その拡幅(北方向又は南方向への拡幅)が都市計画街路斑鳩寺線(以下「斑鳩寺線」という。)として計画されており、かつ、本件土地の大半(平成三年八月九日付都市計画変更後は本件土地全部)は右県道の南方向への拡幅計画部分に指定されていたので、斑鳩寺線が町の公園整備事業の始まる平成八年までに完成すれば、斑鳩寺線から直接工事用車両が工事現場に乗入れることができるが、斑鳩寺線の整備に関する都市計画は昭和三二年に決定されて以来、本件売買当時まで事業化の歩みは遅々として進行しなかった(本件売買以前の昭和六二年九月及び平成二年二月に県が斑鳩寺線用地のために県道北沿いの田の各一部を分筆して買収した例はあったものの、本格的な買収としては本件売買の二年後の平成四年に本件土地の東側隣接地が県土地開発公社によって都市計画区域内の土地の先買いとして買収され、次いで、同六年に太子町松ケ下地区において二件買収されたが、それ以外の用地買収は現在でも未了である。)ため、県(ないし県土地開発公社)による本件土地の買収は将来いつのことになるのか全く見通しのつかない状態であった。そのため、町としては、公園整備事業を計画どおり推進するためには、県が本件土地を買収し斑鳩寺線として整備されるのを待っている時間的余裕がなかったものである。

もっとも、その後の平成六年の町の委託に基づく住宅・都市整備公団近畿公園事務所平成七年二月二〇日作成の〔証拠略〕(太子町総合公園整備事業施工計画書)には、斑鳩寺線は平成一一年に完成が予定されているような記述があるが、これは、本件売買後の平成五年七月二七日に県竜野土木事務所の担当者が斑鳩寺線の整備計画につき地元説明を行った際の将来の整備方針説明に由来するものであり、本件売買以前には、町当局者は県の担当部課から斑鳩寺線の完成時期につき何も説明を受けていなかったことに照らすときは、右〔証拠略〕の存在をもって、控訴人が本件売買当時斑鳩寺線の完成時期を平成一一年と考えていたということはいえない。

(3)  そこで、以上の点を所与の前提として、かつ、公園用地への工事用車両の出入口は、平成八年から向こう約一〇年間にわたって、常時、多数の大型工事用車両の出入口として使用するものであること、出入口の間口はできるだけ広く、工事の施工状況に応じて適宜左右に移動させ得る等融通の余地があり、同時に左右の見通しの良い場所である必要があること等の技術的条件を備えた出入口通路につき検討した結果は、やはり、本件出入口(通道)が適当であるとの結論に至った。

すなわち、前記の技術的条件に照らして、出入口の候補として検討に値するのは、公園用地西側に沿って南北に走る幅員一二メートルの本格舗装の県道からのものか又は本件土地北側に沿って東西に走る幅員七メートルの本格舗装の県道からのものに限られるところ、前者の場合は、交通量が多いため、ここから公園用地への出入口を設けるとその付近道路において交通渋滞となり、ひいては、その北方約五〇〇メートルの地点にある太子・竜野バイパス太子北ランプの機能に支障を及ぼすことになること、この県道東側沿いには幅員二・五メートルの歩道、その東側には水路があるため、ここへ出入口を設けるためには歩道及び水路を越えて堅固な陸橋を作る必要があるが、そうなると工事期間約一〇年間の長期にわたって歩道上の通行はできなくなること等の事情があり、適当でない。他方、後者の場合、本件土地より西は県道と公園用地との間に農協、生協等の建物が建ち並んでいること、本件土地の東側隣接地の大部分には当時建物(事務所)が建っていたこと、それより東方にある農道二本や農道兼墓参道はいずれもその幅員、構造、強度等の点からみていずれも不適当であり、それより東になると公園施設の配置計画との関係上、不適当である。かくして、工事用車両の出入口通路としても本件出入口(通道)以外には適当なものはない。

(五)  そこで、控訴人は、本件土地のうち少なくとも本件出入口通道部分は必要不可欠であるとして、右部分の買収を考え、その旨総代会に伝えたところ、同会長から、本件土地は竜田地区の中心地域に属するから民間業者の手に渡っては困るので是非共全筆買収してほしい旨重ねて要請された。

控訴人としても、公園計画地の北側県道に面した一帯は、前記のように、文教施設や公益施設が集中している竜田地区の中心地域であり、このような地域の環境と公園の立地条件とが極めて整合的であるところに、公園出入口のすぐ横のあたかも公園の一角と見まちがう場所に民間業者が唐突に進出して事業活動に利用されては、公園の周辺環境との釣合い、体裁などの面からみて好ましいことではなく、できれば全筆町が買収しておくことが望ましいと考えた。

ところで、他方、本件土地の県道を挟んだ斜向いに存在する町立竜田公民館の駐車スペースは、普通自動車三、四台分くらいしかなく、町内の他の公民館に比しても著しく駐車スペースが小さいため、竜田公民館で行事等の開催されるとき等には駐車に不便を来していて(検甲号各証によるもこの認定を動かすに足りない。)、かねてより、同公民館の駐車場増設の必要性が指摘されていたので、控訴人において、所管の教育長及び教育委員会事務局社会教育課長の意見を求めたところ、「竜田公民館駐車場用地として本件土地を是非欲しい。」とのことであった。

そこで、控訴人は、平成二年五月、本件土地のうち、公園出入口部分は、いずれ近い将来、公園用地として行政財産の所管替えを行うこととして、とりあえず本件土地全筆を竜田公民館駐車場用地として町土地開発基金において買収することを決断した。

(六)  以上のとおり、控訴人は、本件土地売買の必要性につき、総合公園北側の出入口(公園工事中はもっぱら工事用大型車両の出入口)の確保と竜田公民館駐車場増設の必要とを総合的に判断して本件土地の買収を決断したものということができ、本件売買にはその必要性があったということができるのみならず、およそ、総合公園を開設するかどうか、開設するとしてそれをどのように計画するか、また、公共用駐車場を設置するかどうか、するとしてどのようなものを設置するか等の事情は、もっぱらその計画策定権者たる地方公共団体の長の政策的ないし合目的的裁量判断に属する事項であると考えられることに照らすときは、本件土地につき本件売買契約を締結した控訴人の行為には裁量権の逸脱、濫用があるものということはできない。

2  被控訴人らの主張に対する判断

(一)  被控訴人らは、公園完成後の施設利用にあたっても、また、それまでの施設建設工事に際しても、公園基本計画報告書(〔証拠略〕)においては、公園西側からの進入路がメインエントランスであって、位置もほぼ特定されているのに対し、それ以外の三方向特に北方向からの進入路については「計画地北側の県道を経て」とされているのみであって、具体的な位置の特定までには至っておらず、要するに、北側からの出入口は不可欠のものと断定されているわけではなく、設置するかどうかを含めて検討することが提言されているにとどまるものであり、まして、県道との位置関係については文言上も図面上も特定されていない、と主張する。

前記認定によれば、右報告書(〔証拠略〕)には、公園西側からの出入口をメインエントランスとするとの考え方が示されてはいるものの、その他のエントランスの一として北側県道より公園計画地のほぼ中央部に向かうものも考えられており、その位置についても、〔証拠略〕を総合すると、本件土地の西端部分に特定されているのみならず、〔証拠略〕自体は町から委託を受けた一民間業者の提案にすぎず、計画そのものは右提案を受けた計画権者である控訴人が、公園の北側が竜田地区の中心的地域である状況等も踏まえ、他方、長期間にわたる工事用大型車両の進入路として必要な技術的諸条件を考慮して、政策的、合目的的裁量に基づき本件出入口通道を必要不可欠なものとして決定したこと前記認定のとおりであり、これは計画権者の裁量事項に属するところであって、なんら問題はないから、被控訴人らの右主張は理由がない。

(二)  被控訴人らは、また、北側からの進入路の位置は、本件売買後の平成三年八月九日付都市計画変更決定後は本件土地の東端付近に決定されたが、町発行の「太子町総合計画」と題されたパンフレット(〔証拠略〕)によると、控訴人は、公園出入口が本件土地の東端付近に予定されていることを本件売買当時既に知っていたとみられるので、控訴人において、当時、北側進入路の位置を本件土地の西端付近と定めていたとは考えられないと主張する。

北側からの進入路の位置が、その主張の都市計画変更決定後は、本件土地の東端付近に決定されたことは前記認定のとおりである。そして、なるほど、〔証拠略〕の表紙には「平成二年七月」との記載があり、控訴人の署名入り巻頭言にも「平成二年七月」との記載がある一方、乙七七の四〇頁掲載の鳥かん図(太子町総合公園計画図)(〔証拠略〕)の内容は、前記都市計画決定による変更後のものすなわち北側進入路の位置を本件土地の東端付近とするものとなっている。

しかしながら、〔証拠略〕によれば、右パンフレットは平成二年七月発行予定であったものが、最終校正が平成三年二月二〇日、印刷は同年三月二五日までかかったところ、最終校正当時既に前記都市計画変更決定に用いられるための鳥かん図が出来上がっていたため、最新の鳥かん図を掲載した方がよかろうとの事務担当者の判断のもと、右最新の鳥かん図が掲載されることになったとの事情が認められるので、被控訴人らの右主張は理由がない。

(三)  被控訴人らは更に、本件土地が必要不可欠であったというのなら、当時本件土地と公園北端までの距離が約五〇メートルあったというのであるから、本件土地と公園北端の間に介在する他の土地の取得にも努力しなければ、控訴人としては一貫性を欠くことになると主張する。

しかしながら、〔証拠略〕によれば、右介在地(三五七番二、三及び三五六番一)は地目、現況ともに田であり、かつ、公道に面していない土地(本件土地同様、市街化調整区域内に所在している。〔証拠略〕)であって、民間の不動産業者が買い漁るおそれのない土地であったから、控訴人において早急に買収するまでの必要はなかったことが認められるので、被控訴人らの右主張は理由がない。

(四)  被控訴人らは更に、本件土地は将来県道用地として県に買取されることが確定している土地であったから、控訴人においてあえて購入する必要はなかったと主張する。

本件土地が、本件売買当時北側隣接県道の南方向への拡幅計画(都市計画街路斑鳩寺線)部分に指定されていたことは前記のとおりであるけれども、前記認定1(四)(2)に照らすときは、被控訴人らの主張の理由のないことは明らかである。

三 本件売買価格について

前記争いない事実及び〔証拠略〕を総合すると、訴外玉田数馬は、平成元年一二月一日、田であった本件土地を不動産業者の訴外松本に二七一七万円(三・三平方メートル当り約一五万円)で売却(農地法五条許可申請は平成二年一月五日、同許可は同年三月一日)したこと、訴外松本は右買受け後、数百万円をかけて本件土地の埋立整地を行い、同年四月二三日地目を田から雑種地に変更したこと、控訴人は前記のとおり(町内の竜田地区)総代会より陳情を受けて、自ら現地視察をしたり、教育長及び教育委員会事務局社会教育課長らの意見を聴いたりしたうえ、同年五月、本件土地の買収を決断し、翌六月、町基幹事業推進本部の担当課長補佐二名を訴外松本のもとに遣わして、本件土地の取得価格や転売先、転売予定価格を調査させたところ、訴外松本は「転買人は大阪か姫路の中古車の展示販売業者であり、転売予定価格は坪三八万円くらいである。町の返事は一か月以内にしてほしい。それ以上は待てない。」旨を述べたこと、控訴人自身も訴外松本に電話をして町への売却方を依頼したことがあったが、訴外松本は「役場に売って儲けた。」と言われたら困る等と言い、難色を示していたこと、右課長補佐らにおいて、本件土地が公共事業用地として買収された場合には租税特別措置法により譲渡所得等の課税の特例が認められ、譲渡所得から五〇〇〇万円の特別控除が受けられる(その結果、本件売買の場合には譲渡所得税は課税されない。)ことを考慮し、訴外松本が右転売予定価格で民間に転売した場合に課せられる譲渡所得税額を計算し、それを同人の転売予定価格から差し引いて、町が公共用地として買収する場合の価格を算出したところ、坪当り約二六万円という金額が得られたこと、控訴人は総代会会長山本梅二を通じ訴外松本に右二六万円という金額を提示したところ、同人は「町に売って儲けた。」と言われるのはいやだとの理由で難色を示したが、山本梅二において、町からのお願いだとして説得に努めた結果、ようやく訴外松本の承諾が得られ、右金額で本件売買が成立したことが認められる。

ところで、本件売買当時の本件土地の適正価額につき、鑑定人阿部重孝による鑑定の結果によれば坪当り約一九万五〇〇〇円とされており、前記の約二六万円という金額は右の約三割三分高となっている。

しかしながら、前記認定のように、本件土地は町として必要不可欠な土地であったこと、訴外松本は既に坪三八万円で民間業者に転売しようとしており、町への転売については消極的であったほか、一か月以内の返事を求める等その交渉での態度は至って強硬であったこと、当時はバブル経済の真っ只中にあり地価は更に高騰し続けるものと一般に信じられていたこと(ちなみに、近隣の地価公示標準地及び地価調査基準地の評価は平成元年から同二年の間に二二・八パーセント、同二年から同三年の間に二一・四パーセント上昇していた(〔証拠略〕)し、太子町所在の調整区域内宅地の評価の平均も同様に上昇していた(〔証拠略〕)。)、少なくとも本件売買に関しては、両当事者の職業ないし職務上の知識、経験(売主は専門の不動産業者であり、買主は、太子町内における多くの買収事例を経験している町の各事業担当課を通じてそれを知悉し得る立場にある。弁論の全趣旨)からして、正常な取引価格を知るために鑑定を依頼したり、近隣地の県による買収価格を調査(もっとも、調査しても県がそれに応じるものかは不明である。被控訴人奥松和英本人)したりする必要は必ずしもなかったこと等の事情に鑑みれば、本件売買の価格が一般の取引通念に照らして著しく高額であって適正を欠き、右価格で本件売買をした町長である控訴人に裁量権の逸脱ないし濫用があったとまでいうことはできない。

四 結論

以上によれば、被控訴人らの控訴人に対する請求は理由がないので棄却すべく、これと一部異なる原判決を右のとおり変更し、民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富澤達 裁判官 古川正孝 三谷博司)

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